薬事ニュース社
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>>>大丈夫ですか、制度の「賞味期限」<<<
 すでに名作の評価を確立している世界文学の、いわゆる「新訳」が最近、相次いでいる。「新版カフカ全集」をはじめ、村上春樹訳による「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(サリンジャー)「グレート・ギャッビー」(フィッツジェラルド)、新進気鋭の翻訳家の手になる「冷血」(カポーティ)や「ロリータ」(ナボコフ)などなど。旧訳と読み比べると、微妙に味わいが異なっていてなかなか面白い。カフカ全集の作品のいくつかなどは、新たに発見された手記に基づき全面的に改訳されているため、タイトルはおろか話の筋までガラリ一変してしまったものもあり驚かされる。さて、文学作品のこうした「新訳」の意義は、過去の歴史を、現代の視点で洗い直すという行為にこそ存在するのだろう。「翻訳者」としての村上春樹氏がそのことを実に的確に指摘している。
 「翻訳というものには多かれ少なかれ『賞味期限』というものがある。翻訳というのは、詰まるところ言語技術の問題であり、技術は細部から古びていくものだからだ。どのような翻訳も時代の推移とともに、辞書が古びていくのと同じように、程度の差こそあれ古びていくものである。だからこそその時代その時代によって、翻訳のヴァージョン・アップのようなことはあってしかるべきなのだ」。
 実に然り。ところでこの文章、「翻訳」を「制度」という言葉に置き換えてみると、何とこれまた実にピタリと当てはまるではないか。薬価制度に流通制度、その他もろもろ。はてさて、この国は何と「賞味期限切れ」が気になる制度ばかりであることよ。
(2006年12月4日掲載)