薬事ニュース社
オピニオン

>>>生きるか死ぬかの不均衡<<<
 正月休みに西アフリカのとある国へ行くことになり、渡航に義務付けられている黄熱病の接種を受けた。まだまだ世界には黄熱病、マラリア、デング熱など太古からの人類の課題・伝染病で苦しんでいる人が多数いるという事実がある。予防接種ワクチンを受けずに死亡している5歳以下の子供の数が年間140万人(WHO推計)、南部アフリカでは死亡原因の第1位がHIV感染症、タイではエイズ薬の生産・強制実施権を緊急発動――等々、極めて良好な衛生状態の日本との彼我の環境の差を感じずにはいられない。それら地域で不足が叫ばれているワクチン産業は、日本においては少子化により縮小しつつあるという現状も、世界の不均衡の一端を垣間見る指標となり得る。
 一方、先進国では「健康診断」や「健康教育」を施してくれることにより――予防接種を受けられない子供のように生きるか死ぬかの瀬戸際にいるわけではないが――自分が健康かそうでないかの位置づけを図ることができる。それにより「まったく問題なし」だと思っていた己の身体が、実は高脂血症だったり高血圧だったり判明する。年を取って骨が脆くなったのも実は「骨粗鬆症」だ、気分が塞いでいたのは「うつ」だ、と診断がつけられる。そして、生きるか死ぬか喫緊の事態ではない所にいながら、高度な医療設備や薬剤の恩恵を受けることができる。
 ありがたい境遇だとは思うのだが、健康か不健康かの曖昧なラインで右往左往することになるのも、先進国の住人ならではの宿命なのか……。
(2006年12月15日掲載)