薬事ニュース社
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>>>「与薬」巡るある静かな論説合戦<<<
「与薬」という言葉を巡って静かな論説合戦が展開されている。
この言葉は、最近では病院・診療所や保険薬局の他、保育所等でも耳にするようになり、違和感なく聞き取っている人も多いだろうが、同じ意味に「投薬」がある。ともに、患者に薬を処方することを指すのだが、歴史的には「投薬」の方が古く社会的認知もある。しかし、字面から「薬を投げるのか」と患者が間違って解釈するおそれもあることから、「薬を与える」という意味の「与薬」に改めようとする動きが看護師の間から起きているのだとか。
今度は、そうした動きに「投薬」の言葉を使い慣れているベテラン医師らが異論を唱えはじめている。その論拠が大変興味深い。それは「投」と「与」の字の意義の違いに着目したもの。「与える」は常に上から下へ物をやる行為であるのに対し、「投げる」は「贈る」という意味はあっても、上目線でやるという意味がないというのがその主張だ。つまり、「与」には敬意はないが、「投」にはそれがあるというのだ。となると、今医療現場を中心に浸透しつつある「与薬」は、字義の上で、患者への行為としては「投薬」よりも丁寧さを欠くということになる。
しかし、言葉の意味とは、ややこしい理屈抜きにして時代の流れと共にどんどん変化しながら普及していくものでもある。「与薬」の言葉も同様。その使用場所は医療現場に止まらず、厚生労働省が発出する告示・通達にも既に登場している。 巷で言葉の乱れが溢れる昨今だからこそ、言葉の字義の探求が重要になってくるが、患者の視点で言えば、「投薬」でも「与薬」でも、肝心なのは薬が処方される行為に医療提供者側の敬意が実感できるかどうかである。同じ論説合戦ならば、意味より内容でやってもらいたいというのが、患者の本音ではないだろうか。
(2006年3月17日掲載)