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コラム
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>>>性同一性障害の性転換手術<<<
メディカル・エッセイスト 岸本由次郎

自分が表面的に有している生物学的性別をありのまま受け入れることができない場合、これを「性同一性障害」と呼ぶ。
もし、この気持ちのズレがそれほど強くなく、医療介入の必要性を感じていなければ、敢えて障害や疾患として扱う必要はなく、これについては「トランスジェンダー」と呼ぶ。
だが、どうしてもはっきりとした診断と治療を求めて、専門医を訪れる患者も多く、2~3000人に1人、実数として約5万人いると想定されている。
当然の成り行きとして手術に踏みこむ患者も多く、幸い手術の方法も進歩している。
手術は、まずそれぞれのシンボルを取り除くことから始まるが、それ自体は比較的簡単。問題は新しく反対のシンボルを取り付ける形成術に大変苦労する。
女性化のシンボル・膣形成術については、不必要となった睾丸の皮膚が用いられていたが、術後狭窄により、深さが保ち難い欠点があった。そこで最近は、腸管を用いることに変更、狭窄化を防止し改善に成功した。
一方、男性シンボル・陰茎尿道形成術については、これまで前腕の皮弁を巻寿司のようにしていたが、尿道狭窄の欠点があった。そこでそ径部の皮弁を用い問題が解決された。
こうした術式改善が、性同一性障害先進国のベルギーでなく、わが国で考案され、海外に普及拡大しているのは大変誇らしいことである。
わが国における性転換手術は、丁度50年前に初めて実施された。当時ブルーボーイと呼ばれていた男娼3人が同時に女性化手術を受けた。
だが、術者の産婦人科医は、麻酔取締法や優生保護法などの責任を問われ、逮捕、有罪とされている。わが国初の性転換手術ということもあり、社会的に大変センセーショナルな話題を呼び、「ブルーボーイ事件」としてこの種の歴史の1頁を飾ることとなった。
ちなみに、当時の優生保護法第28条には、「故なく生殖を不能にすることを目的とし、手術又はレントゲン照射を行ってはならない」とあった。
その後、正式に合法化され、16年前埼玉医大において、日本で初めて公法的に、公けに性同一性障害の治療として性転換手術が施行され、今日の発展につながっている。
(2015年4月24日掲載)