薬事ニュース社
ケアマネ日記
>>>血糖降下剤と睡眠障害改善剤の誤った服薬で副作用<<<
開局薬剤師ケアマネジャー 山鳥さとよ

(・・・その5からのつづき)
2軒目の訪問先のAさんは、いつもは夫婦二人暮しだ。夫は痴呆性老人の日常生活自立度は正常で、普段は夫が妻の薬の管理をしていたのだが、数日前、風邪をこじらせ急性肺炎で入院してしまった。病院へ様子を見にいったヘルパーが、「妻の薬が心配だ」と夫がいっていたと報告にきたので、すぐ居宅を訪問して見た。
するとAさんが通院中の、分業をしていない大病院からの大量の薬が棚に乱雑に積み上がっていた。ヘルパーの話では、Aさんの妻は、仏壇の供物はちょっと目を離した隙にすぐ下げて食べてしまうし、「明日の分ですよ」といって冷蔵庫へ仕舞った食べ物はヘルパーが帰るとすぐ取り出して食べ始めるという。すごい食欲だ。ひょっとすると、血糖降下剤を飲んだのを忘れて何回も続けて飲んで、低血糖状態の異常空腹感になっているのではないか。
危なくていられないから夫の入院中、往診医と訪問看護師に週1回ずつ交互に入ってもらい血糖値の管理をお願いしておいた。本日、往診医からの処方せんをヘルパーが持ってきて、処方せんの備考欄に「薬剤師居宅療養管理指導」「1包化」とあったので、やっと晴れて私が居宅での薬の管理ができるようになったのだ。これで安全性がかなり高まる筈だ。
Aさん夫婦は生活保護を受けており、1人6万円程度の生活費しかないから、1万円もする上等な服薬カレンダーを購入する余裕はないに違いない。仕方がないから、実習生のKさんに頼み、切り取ったダンボール紙にビニール布をホチキスで止め、どうにも見栄のしない服薬カレンダーではあるが、ないよりマシと壁に下げてもらい、持参した分包薬を2週間分差し込んだ。だが心配だから、しばらくは毎日、Kさんに見にきてもらい報告してもらう予定だ。
本日、最後の訪問先はNさんだった。背骨が変形し、突出した部分に、数カ月前、褥創ができ痛くて眠れないというので、睡眠障害改善剤が就寝前に処方されたのを、私が持参し、その場でしっかり服薬指導したつもりだった。
翌朝、ヘルパーが朝食の準備に訪問すると爆睡中という。脈はあり呼吸もしているが耳元で呼んでも揺すってもまったく目を覚ます気配がないともいう。これはまずいと、そのヘルパーに分包した薬の数を調べてもらったところ、案の定、寝る前の分が3つなくなっているという。「すぐ主治医に電話し状況を報告し、救急車を呼ぶべきか、寝たまま車椅子で病院へ連れて行くべきか、起きるまでそのままにしておくか、指示通りにされたい」と伝えた。
結果は、病院へ車椅子もろとも2カ月留め置かれたのである。この事件に懲りて退院してからは寝る前と書いてある薬は飲まなくなってしまい、ほとんど残薬になっている。そのためか、最近、胃痛や胸焼けを訴えたり、前よりも元気がなくなりデイサービスへ行きたくないといい出したりしている。
そこで主治医にお願いし、就寝前服用とされていた、H2ブロッカー、消化器機能改善剤、抗うつ剤を夕食後の薬剤と一緒に分包することになった。今日は、就寝前のをなくしてから2度目の14日分の処方せんだ。Nさんは、毎日1日分ずつヘルパーが服薬カレンダーに差し込んでくれるよう頼んであるから、このごろはとても安心だ。
Nさんは時々酸素吸入が必要だというのに、部屋に入ると煙草の煙が充満しており、こちらが呼吸困難になりそうだった。すぐに換気のため窓を開けさせてもらい、ドアには車椅子を挟んで閉らないようにし、実習生のKさん共ども咳き込みながら服薬カレンダーを調べた。右下の使用していない場所に、どういう訳か夕食後の分が2包残っていたので本人に尋ねると「飲み忘れた」という。私が今日訪問することを予め知っているヘルパーが、帰る直前にそこへ残薬をまとめておいたのだろう。夕食後の分を飲んだのを忘れて余っていた分をもう1度飲むと危険だから、Nさんに承諾を得た上で残薬2包は持ち帰って処分した。
(この項終わり)
(2007年2月2日掲載)
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