新薬開発の将来
新薬開発の将来 新規プラットフォーム・安全性評価
――今後の研究開発の方向性を探る
 抗体医薬が普及した現在、世界中の製薬企業はアンメット・ニーズを対象に、次世代の抗体の探索を急ピッチで進めている。現在、各社が鎬を削っている抗体医薬については、「細胞内物質を標的とすることができない」「抗原性を完全に否定できない」などの課題がある。これらは、高分子量のタンパクであるがゆえの特徴だが、これらを克服するためFabフラグメントなど免役グロブリン構造をベースにした試みも行われている。このほか、ポスト抗体医薬として、アプタマーやRNAi、mRNAなどのRNAを利用した核酸医薬の可能性も現実味を帯びてきている。そのほかにも、糖鎖やナノ抗体などへの取り組みも進む。ここでは、がんの最新遺伝子治療やDDS技術の積極活用を提言したヒューマンサイエンス振興財団の報告書、安全性評価についての議論について紹介する。

夢の癌治療遺伝子「REIC」アポトーシスとがん免役活性化を誘導
――固形癌に広く効果 2009年に米で治験開始へ
 岡山大学ナノバイオ標的医療イノベーション(ICONT)センターと、岡山大学発バイオベンチャーの桃太郎源、日東電工は「がん抑制遺伝子REIC」を活用した遺伝子医薬の開発に着手する。現在は、2009年9月の治験開始に向け、FDAとの協議を行っている。都内で開かれた記者会見で、ICONTの公文裕巳センター長(桃太郎源取締役)は、「REIC」について、「①がん細胞の選択的な細胞死②抗がん免役の活性化の機能を併せ持つ」と説明し、「前立腺癌に限らず、幅広い癌種に適応が可能で、治療法のない固形癌に対し大きな可能性を秘めている」と期待を示した。米国での臨床試験では、再発リスクが高く限局性の前立腺癌患者を対象に、製剤の安全性などを検証する。
 REICは、不死化細胞の研究から、岡山大学で独自に単離・同定された遺伝子で、癌抑制遺伝子の1種。正常細胞に高発現しているが、各種の癌細胞では高い頻度で発現が抑制されている。REICの発現が低下した前立腺癌に、REIC遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター「Ad‐REIC」を導入したところ、小胞体で構造異常REIC蛋白質が産生され、その蓄積によってアポトーシスが誘導されることが確認されている。
 また、アポトーシス誘導効果に加え、REIC導入によってIL‐7誘導因子であるIRF‐1が増加することで、IL‐7を介してNK細胞を活性化させることも確認されるなど、免役活性化作用も確認されている。
 公文センター長は、様々な固形癌でREICの発現異常が認められることから、癌抑制遺伝子として名高いp53や魔法の弾丸と言われるMDA-7、既存の遺伝子治療と比較し、「多種類の固形癌に適用が可能であり、均質の治療効果が期待できる」と強調。「21世紀の夢のがん治療」と期待を示している。今後は、前立腺癌のほか、乳癌や悪性中皮腫など、幅広い癌腫について開発を進めていく。
 協働企業として参加している日東電工は、REIC遺伝子を生体へ投与する際に、効率的にがん細胞に導入するためのデリバリーシステムとして生分解性ポリマー型遺伝子キャリアー「CarriGene」を開発。同社の生分解性ポリマー型遺伝子キャリアーは生体反応が低いため繰り返し投与が可能であることから、「がん治療を目的とした安全性の高い遺伝子医薬の開発ができる」(日東電工)としており、今後、REIC遺伝子断片と生分解性ポリマー型遺伝子キャリアーを用いて、前立腺癌、悪性中皮腫を対象とした治療について、公文センター長グループと共に研究を進める。

DDS技術の積極的な活用を
ポストゲノムの医薬品開発戦略ツールとして有望
課題は環境整備 HS振興財団が提言
 ポストゲノムの医薬品開発戦略ツールとして、DDS技術の積極的な活用を図ると共に、DDS市場が成長するための日本での環境整備が必要だとする調査報告書を、ヒューマンサイエンス(HS)振興財団が2008年にまとめた。報告書は、今後の拡大が予測されるDDS製剤市場で、日本の立ち遅れを指摘。 産官学の連携や、技術支援や金銭的な支援を進めるだけでなく、薬価算定でも評価する必要があるとの考えを示している。
 報告書によると、2003年の世界のDDS製剤市場は、日本の市場規模に匹敵する7兆円で、これまで二桁成長が続いていることから、2008年には10兆円超と予想され、「今後発展が見込まれる有望な成長分野である」と予測している。
 成長の背景として報告書は、DDSについて「これまでは既存薬物のライフサイクルマネジメントに活用されてきたが、複雑化し、要求も高くなっている新規化合物の課題をDDSが補完するのは明らか」と、DDSの戦略的価値を強調。DDSが脚光を浴びる理由として、①新薬開発の成功確率を高めるための手段として製剤技術の活用が重視されてきた②タンパクやペプチド、核酸などの新しいバイオテクノロジーを活用した製剤も、有効成分を患部に安定的に届けるための安定性や粘膜などの膜透過性に課題を抱え、その解決手段として注目されている③大型製品の特許切れ対策として不可欠なツールとなってきた――と説明した。
その上で、「欧米ではすでにDDSの開発事例も多く、比べると国内DDS市場は立ち遅れているように見える」と警告。立ち遅れた要因としては、「このような製剤化技術が薬価に反映されにくかった」ことを指摘。国内製薬企業におけるDDS製剤開発に対するインセンティブが高いとはいえず、DDS研究は大学が中心で海外で開発されたものや、日本のものでも海外で開発したものを、国内に導入する傾向が強かったと説明した。
ただ、粒子を微細化して、溶解性・吸収性を改善する技術をはじめとした基礎研究では「世界をリードしている」として、原価・薬物・市場などを中心とした算定だけではなく、QOLなど医療経済学的な有用性や採用されている技術を反映させるなどの薬価制度面での改善および、産官学一体となった基礎研究・応用研究の強化が必要としている。

(薬事ニュース 2009年1月1日号掲載)