㈱薬事ニュース社--Doctor's Trend--

医療・医薬の"未来"にフォーカス 医療行政に鋭く切り込む「総合医療専門紙」
THE DOCTOR購読申し込み

喫煙者にチャンピックスを導入

1人あたりの生涯医療費を約3万円節約

 東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学の五十嵐中特任助教は4月21日、ファイザー主催のセミナーにおいて「禁煙治療薬のチャンピックスによる禁煙治療が医療費と寿命に与える影響予測」をテーマに講演。禁煙準備期の喫煙者に対し、「禁煙指導に加えてチャンピックスを投与した場合、1人あたりの生涯医療費を約3万円節約し、健康余命(QALY)を約0.1年延長させるのではないか」との考えを示した。

将来の医療費を約95億円削減

 五十嵐助教は、禁煙外来に12週間で5回受診した場合にかかる保険診療費を用い、禁煙指導+チャンピックス投与により1人あたりの生涯医療費を約3万円節約可能と推計した詳細を提示。禁煙治療の導入コストとして禁煙指導のみでは1万5000円に留まるが、チャンピックスの費用4万4000円を加えると計5万9000円となる。しかし、導入コストを加えた将来の医療費は、禁煙指導のみが164万9000円に上るものの、指導+チャンピックスでは162万円とし、「チャンピックスの導入費用は若干負担が大きくなるものの、将来的に2万9000円の節約になる」と説明した。またQALYについては、禁煙指導のみが19.216年に留まるものの、指導+チャンピックスでは0.079年延長させて19.295年になるとの考えも明らかにした。  喫煙者人口全体で見た場合については、禁煙指導のみの導入コストが49億4000万円で、禁煙指導+チャンピックスが191億3000万円。導入コストを加えた将来の医療費は、禁煙指導のみが5373億3000万円となるのに対し、禁煙指導+チャンピックスでは5278億1000万円に留まるため、95億2000万円の節約になるとの考えを示した。なお、生涯医療費は、コホート研究から喫煙がリスクファクターとなる肺がんや大腸がんなど10種類のがんとCOPDや喘息、脳卒中など9種類の疾患計19種の医療費を組み込んで推計したもの。

発売1周年を迎えるチャンピックス

 ファイザーが開発した禁煙治療薬「チャンピックス」(一般名=バレニクリン)は、ニコチン性アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)に対する部分作動薬。脳内のα4β2ニコチン受容体にニコチンが結合するとドパミンが放出するため、喫煙による快楽が生じるが、同剤はこの受容体に結合することでニコチンの結合を阻害する。また、少量のドパミンを放出し、禁煙に伴うイライラ感や集中困難などの症状やタバコに対する切望感を軽減させる作動薬作用とともに喫煙から得られる満足感を得にくくする拮抗薬作用を併せ持つ。

喫煙者数の推移

 07年の喫煙者数は、2476万人(前年比2.4%減)で、男性1952万人(同1.9%減)、女性585万人(同8.7%増)となり、男女比は約3:1で、喫煙者は徐々に減少傾向にある。要因としては、08年7月に成人識別たばこ自動販売機のためのICカード「taspo(タスポ)」を全国で導入完了したことや09年に47都道府県中32都府県でタクシーの禁煙化、JR東日本の首都圏エリアで駅ホーム全面禁煙など、社会情勢の変化が影響している。また、神奈川県では受動喫煙防止条例成立により、10年4月より公共的施設における喫煙が禁止されるなど、条例が成立される地域もある。

禁煙しようと思うきっかけで最も多いのはタバコの値上げ

 ファイザーが実施した調査によると禁煙しようと思うきっかけを喫煙者6498人に聞いたところ、過半数の60.1%が「タバコの価格が上がったら」と回答。この結果は、「健康を損ねたら」59.0%さえも上回る割合で、タバコ税の引上げが喫煙者を減少させる最も有効な方法であることが浮き彫りになった。また、タバコの値段がいくらになれば禁煙しようと思うかの問いでは、「500円位」が33.6%、「600~1000円位」30.1%、「400円位」16.6%と続き、1箱500円になれば半数以上、1000円では約8割の喫煙者が禁煙すると答えた。

チャンピックス 投薬期間制限が5月より解除

 チャンピックスは、市販後6カ月時点で約6万人に処方された実績を持ち、承認取得から1年は14日間の投薬期間制限があったが、5月1日より制限が解除された。五十嵐助教は、「医療費が増えても投資に見合った効果が得られれば良い」とし、「チャンピックスは投資に見合った効果を超え、医療費を削減できる」と評価した。

(2009年05月13日掲載)