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高齢者への肺炎球菌ワクチン接種で
死亡率は顕著に改善


万有製薬主催・メディアセミナー
「高齢者を肺炎による死亡から守ろう」


長野県波田町での公費助成による接種の実例を紹介

 万有製薬主催によるメディアセミナーが11月13日、「高齢者を肺炎による死亡から守ろう」としたテーマで開催された。セミナーでは、長崎大学名誉教授・愛野記念病院名誉院長の松本慶蔵氏による講演のほか、06年度から高齢者の肺炎球菌ワクチン接種への公費助成を実施している長野県波田町の取組みについて、波田総合病院救急総合診療科科長・清水幹夫氏および波田町住民福祉課課長・野村睦広氏による実例紹介が行われた。

ワクチン効果は顕著、将来的には「2回接種」を要望

 肺炎は現在、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患に次いで日本人の死因第4位であるとともに、その95%を65歳以上の高齢者が占めている。肺炎の原因の25%から35%を占めているのが「肺炎球菌」で、約91ある肺炎球菌のうちヒトに病原性があるものは約3分の1と言われている。  長崎大学の松本氏は、現行の肺炎球菌感染症の問題点として、▽ペニシリン耐性菌の出現が1990年代という「遅れてきた耐性菌」であるがゆえに、耐性菌の拡大が著しいこと▽最近ではニューキノロン細菌耐性菌が出現、増加しつつあること▽インフルエンザ感染後、肺炎球菌が気管支や肺へ下降感染しやすくなること―などを挙げている。  そのうえで松本氏は、高齢者の肺炎予防におけるワクチン接種の有効性を強調。国内のある調査ではワクチン非接種群に比べ、ワクチン接種群の入院回数が50%減少した例などを挙げ「ワクチンの効果ははっきりしている」とした。また、現在の日本の接種率は高齢者人口比で4・26%と、急激に伸びてはいるものの「米国の60~70%に比べ低い」として一層の普及・啓発の必要性を説いた。  さらに、現行では再接種が禁忌事項となっていることも問題点として指摘。これは、海外データで初回接種から2年以内の再接種により局所反応が重症化したことに起因するが、その後のデータでは初回接種から4年が経過すると副反応の発現率は上昇しないことが示されたという。こうした試験結果を受けて、すでに米国でも「接種を受けたのが65歳以前でかつ5年以上が経過している場合」には2回目の接種が認められていることを紹介するとともに、「日本でも厚労省に再接種を認めるよう要望を出している」と述べた。

費用の3分の1を町が補助、死亡率は激減

 こうした肺炎球菌ワクチンの接種に対して、費用の一部補助を行っている地方自治体は現在78市区町村に及ぶが、そのひとつである長野県波田町での公費助成開始の経緯等について波田総合病院の清水氏は、「04年度から05年度シーズンに高齢者の重症肺炎患者が多発し、病床が満床状態で他の医療機関への搬送を余儀なくされる事態に陥った。また、少ない病院内科医も疲弊し、患者のQOL維持や地域の医療費負担削減の観点からも改善策が必要になったため」と説明。清水氏は、同病院での肺炎患者の入院費用が1日平均2万8690円、1ヵ月では86万700円かかっていることも挙げ、「これも何とか削減したいと思い、行政とともに検討を始めた」と語った。  実際に肺炎球菌ワクチン接種を導入するに際しては、「限られた医療資源をどう投入するか。また、現状では1回のみの接種しかできないので、どのタイミング(年齢)で接種するのがもっとも合理的か」を行政とも相談しながら判断。  その結果、同病院の肺炎入院患者数は「0~4歳」とともに「75歳以上」が圧倒的多数を占めていたため、「75歳以上とするのが合理的と結論した」。また、接種率が50%と高い水準にあるインフルエンザワクチンと同時に行うことで接種率向上を図った。こうした取組みにより、公費助成によるワクチン接種を開始した06年度以降、同病院への75歳以上の肺炎入院患者は減少傾向を示しているということだ。  同町住民福祉課の野村課長によると、06年度から08年度までの接種率は45・7%。75歳以上の肺炎死亡者数が全死亡者数に占める割合は06年度の15・0%から07年度は6・1%、08年度は9月時点で3・6%と大幅な改善効果が見られる。なお、接種費用は6000円で、うち2000円を町が補助している。  波田町が「75歳以上」を接種対象としたことについて長崎大学の松本氏は、「米国では65歳以上を推奨しているが、同町の場合はデータに基づいた判断」とコメントし、一概に65歳で線引きする必要はないとの考えを示唆している。

(2008年12月08日掲載)