オピニオン

小数点以下3桁の「勝利宣言」

 スポーツの試合などにおいて、きわどい差で勝敗が決したような場合に「コンマ差の勝利」だとか「コンマ数ミリ差の決着」などと比喩的に表現することがある。すぐに思い浮かぶのは陸上競技の百メートル競走や競泳などの種目。とりわけ平泳ぎや背泳ぎなどは、肉眼でも比較的はっきりと優劣を見分けることができる。電光掲示板に表示されたタイムは同じなのに、文字通り「タッチの差」で明暗が分かれるといったこともままある。たとえコンマ数秒、小数点以下2桁、3桁の僅差であっても、1位と2位、あるいは2位と3位の間には厳然たる差が存在するのである。
記憶に間違いがなければプロ野球でもかつて、小数点以下の差でタイトル争いが決着したことがあったはず。首位打者は歴史に名を刻み、2位に甘んじた者は忘れ去られてしまう。たとえミクロの差であっても、勝者と敗者の差は歴然としている。
 これが競馬や競輪といった競技になると事情は少々異なってくる。鼻差であろうが何であろうが勝ちは勝ち、負けは負けという事実は揺るがないのだが、同じ勝負事でもお金を賭けているとなれば観る側の熱の入れようも違ってこよう。
 さて、診療報酬改定、である。「0.004%」という数字に、医療関係者からは早くも「顕微鏡で見ても見えない」などと揶揄の声も挙がっている。しかし、周囲の冷めた反応とは裏腹に、厚労相や日医会長の口から出るコメントは「勝者」のそれである。財務相の弁と比較すれば、その差は一目瞭然だが、それもそのはず、小数点以下3桁ではあっても、市民感覚からすれば桁違いの金額が動くのだ。
 要するに、次期改定に限っては数字の大小はさほど重要ではない、というわけだ。小数点以下何桁であろうが「プラス」を認めさせた事実が、厚労相の、そして日医現職会長の「勝利」であり、だからこその象徴的「勝利宣言」なのだろう。



(2012年1月20日掲載)



前後のオピニオン

花粉症の季節到来
(2012年1月27日掲載)
◆小数点以下3桁の「勝利宣言」
(2012年1月20日掲載)
ビタミン剤の給付制限の効果
(2012年1月13日掲載)